【報 告】「日本の古代製鉄の研究成果」に大賞を授与  第7回渡来文化大賞授賞式&ミニ講演会 5/17(土)

【報 告】「日本の古代製鉄の研究成果」に大賞を授与  第7回渡来文化大賞授賞式&ミニ講演会 5/17(土)

 5月17日(土)、高麗神社参集殿2階大広間で、「日本高麗浪漫学会 高麗澄雄記念 第7回渡来文化大賞」の授賞式&ミニ講演会を開催しました。

第7回渡来文化大賞授賞式&ミニ講演会(会場:高麗神社)

 授賞式には、受賞者をはじめ、来賓、関係者、高麗1300会員など40名が出席しました。冒頭では、高麗1300大野松茂会長、日本高麗浪漫学会新井孝重会長(高麗1300副会長)、高麗神社高麗文康宮司(高麗1300副会長)が挨拶しました。

高麗1300 大野松茂会長
日本高麗浪漫学会 新井孝重会長
高麗1300 高麗文康副会長(高麗神社宮司)

 続く授賞式では、3名の受賞者を紹介したあと、大野松茂会長より、賞状と副賞(賞金または記念品)が手渡されました。なお、渡来文化研究啓蒙賞を受賞した酒寄雅志さんは、2021年12月に逝去されているため、光子夫人に渡されました。

大賞受賞の大道和人さん(右)

<渡来文化研究大賞>
  大道和人さん

 (滋賀県立安土城考古博物館学芸課)

『日本古代製鉄の考古学的研究
 ~近江から日本列島へ~』

 雄山閣 2024年10月25日発行

奨励賞受賞のアンデルセン エミル マルテさん(右)

<渡来文化研究奨励賞>
  アンデルセン
     エミル マルテさん

 (大阪大学大学院人文学研究科
           日本史専攻)

『渡来系の人の個人名と同化
  ~亡命百済・高句麗系の
     人の例を中心に~』

季刊誌『古代文化』第76巻第3号
古代学協会 2024年12月30日発行

啓蒙賞受賞の酒寄雅志夫人の光子さん(中央)と関係者の皆さん

<渡来文化研究啓蒙賞>
  酒寄雅志さん

 (元國學院大學栃木短期大学教授)

  『渤海と日本』

   吉川弘文館 2024年1月1日発行

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今回受賞された皆さん

 選考講評では、渡来文化大賞選考委員会の鈴木靖民委員長(國學院大學名誉教授)より、受賞作品についての評価および選考理由が述べられました。また、酒井清治選考委員(駒澤大学名誉教授)からは、今年の応募作品すべてを短期間に目を通し、そこから受賞者を選んだ苦労ぶりが明かされました。

渡来文化大賞選考委員会委員長の鈴木靖民先生
渡来文化大賞選考委員の酒井清治先生

休憩後、3名の受賞者によるミニ講演会へ

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・・・講演の内容を簡単にご紹介します。(一部資料より補足)

<渡来文化研究啓蒙賞> 酒寄雅志さん/代理講演:小嶋芳孝さん

 まずは、渡来文化研究啓蒙賞受賞者の酒寄雅志さんに代わり、小嶋芳孝さん(金沢学院大学名誉教授)が講演しました。小嶋さんは、このために金沢から駆けつけてくださいました。また昨年の第6回渡来文化研究大賞『古代環日本海地域の交流史』を受賞されています。酒寄さんとともに渤海史の研究をされてきた方です。

酒寄さんの功績を紹介する小嶋先生
ミニ講演のために金沢から駆けつけてくださいました

 モニターに、酒寄さんとロシア沿岸地方や中国東北地方の渤海遺跡を訪ねた際の写真を映しながら、当時の様子を話しました。酒寄さんは、一般の人々にわかりやすく渤海使研究の成果を伝えたいとの思いから、この出版に向けて準備をされていたそうです。酒寄さんが亡くなってから1年後に奥様から「亡くなる間際まで本書の出版を気にかけていたので、なんとか出版を果たしたい」と相談されたのが始まり。酒寄さんの教え子の平澤加奈子(東京大学史料編纂所学術専門員)さん、浜田久美子さん(大東文化大学教授)と遺稿出版を進めました。本文の原稿は完成していたものの、註や参考文献は未完だったので編集者が独自に入れたそうです。渤海使をわかりやすく人々に伝えたいという酒寄さんの遺志は実現できたと思うと話しました。

 そして本書の内容に沿って、写真を紹介しながら、酒寄さんの研究の足跡を紹介しました。酒寄さんは、日露戦争の戦利品として皇居に納められた「鴻臚井の碑」の経緯を明らかにして、調査の成果を報告しています。中国でも知られるようになり、北京で開かれた会議に参加しています。小嶋さんは、(研究が進んだのは)酒寄さんの誠実な人柄に負うところが大きかったと振り返りました。また、1930年代に渤海上京城を調査した東亜考古学会について2004年から6年かけて詳細に検討し、学会の研究活動が満州国擁立の歴史的な根拠を求める国策に従っていたことを明らかにしました。

 小嶋さんは、酒寄さんの研究について、渤海使研究の最新情報を平易に述べていて、自身が目指していた研究の方向性を知ることができる。さらに酒寄さんが進めてきた渤海使研究の到達点であり、またこれから進めようとしていた研究の出発点でもあったと、酒寄さんの著書の出版を振り返りました。

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<渡来文化研究奨励賞> アンデルセン エミル マルテさん

 つづいてアンデルセン エミル マルテさんが講演しました。アンデルセンさんは、度々日本に母国デンマークから国費留学などをしていて、今は大阪大学大学院で日本史を専攻しています。ご本人は、論文は対象ではないと思っていたそうで、周りから進められて応募したそうです。渡来文化大賞で論文での受賞は、第7回にして今回が初めてです。

応募を躊躇したそうですが論文の受賞は初めて
流暢な日本語で講演するアンデルセンさん

 アンデルセンさんは、自身の論文を丁寧に、わかりやすく解説しました。まず、論文テーマとなっている用語について、「渡来系の人」は、外国人と日本人の中間的存在という点を重視していること。また「同化」は、諸説ある中で「グループ間における民族的区別の減少」と定義しました。

 そして、史料が比較的残っている660年代の百済と高句麗の滅亡により倭国に亡命した人とその子孫の個人名を分析しました。課題として「亡命系の人の名に表される同化の究明およびその位置づけ」をし、研究を進めています。

 まず、続日本紀や正倉院文書に登場する士族の代表者に着目し、亡命系1世の外国風名(抽象的な漢字2文字など)が時間と世代交代によってその子孫は日本風名(「表音的な万葉仮名や訓読など)を使用するようになっていったといいます。また、命名時(誕生日)によって続日本紀と正倉院文書の経師に登場する名前の違いを分析すると、渡来直後から変化が始まり、20年で半減、渡来後70年(730年)頃になると、外国風名が例外となっています。そして、祖国を象徴する職掌や出自、所属する共同体などにより、命名習慣の同化は左右され、多様化が包含するようになったと説明しました。

 同化の前提としては、亡命百済人は、律令制のもとで特別な処遇を受けていたのが、最終的には在地の人と同じ一般良民となっていった。また当初「復」などの特別な待遇を受けていたが、日本の制度の中に組み入れられていき、国家による同化が図られたとしました。

 さらに、百済郡や高麗郡にもふれ、亡命系の人が隔離されたものではなく、周辺の在来の人々との交流が多かったことが、同化が進んだ要因としました。また、在地社会との濃密な交流の前提に安置が行われたと説明しました。

 最後に、亡命系の人と在来の人の間に起った命名慣習の同化について、民俗的な帰属意識や日常的な思想の同化、通婚などによって8世紀半ばまでに進んでいったとしました。

 これからの展望として、個人名は同化の進行を評価できる重要な指標であること、今後は在来側の変化という同化のもう一方もとらえる必要があること、そして古代日本人は、渡来系の人を吸収し消化したのではなく、渡来系の人と同化・融合した人民であると考えたほうよいのではないか、この点について議論を深化させる必要があると、締めくくりました。

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<渡来文化研究大賞> 大道和人さん

 最後に、大道和人さんが講演しました。大道さんは現在、滋賀県立安土城考古博物館学芸課に勤務されています。本書は、2022年に同志社大学に提出した博士論文を骨子として、内容に加除補訂を加えたものです。

日本の古代製鉄が始まった実態を解説
大道和人さんは

 大賞を受賞した書の内容を順を追い、近江から日本列島へという視点で、古代製鉄の実態について考古学的研究方法を用いて解説した書とのこと。第1章では古代製鉄研究史を整理し、日本での製鉄の開始時期、日本列島各地での製鉄の開始時期、製鉄展開期の様相の解明について論じました。

 日本古代製鉄の開始については、弥生時代の製鉄の実態把握には至っていないこと、製鉄炉の遺構は6世紀中頃の吉備で、古墳時代後期であること、朝鮮半島の大型筒型炉とは異なる箱型炉を開発、これまで鉄素材を入手していた加耶諸国滅亡が起因と論じました。

 また、8世紀中頃から10世紀の古代製鉄展開期について、箱型炉に加えて竪型炉が出現、炉の半分が地下に埋まり、踏みフイゴが伴う構造で、東日本で普及が進んだのは東日本の砂鉄に対応しやすかったためとしました。常陸風土記の記事や国家仏教推進とかさなることから、律令国家の直接的な関与があったと解説しました。

 最後に、近江から日本列島へという視点で、Ⅰ期からⅦ期の7つの段階に分けました。吉備に出現した渡来系鍛冶炉をモデルとしたⅠ期や、近江で渡来人の関与による箱型炉の開発と東日本への普及したⅢ期、Ⅴ期では、近江紫香楽宮での大仏造営から半地下式竪型炉が発明され、やがて日本国内で銑鉄の生産が可能となり、大陸並みの鍛冶と鋳造技術が可能となったとし、このことからも日本古代製鉄の動向を解く鍵は、近江に現れるとの結論に至ったと解説しました。

 大道さんは、本書の内容を説明するには短すぎる講演時間の中で、図やグラフを示しながら日本の古代製鉄の始まりについて解説されました。

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 日本高麗浪漫学会副会長の荒井秀規による閉会の挨拶のあと、関係者による記念写真を撮影し、第7回渡来文化大賞授賞式&ミニ講演会は終了しました。

第7回渡来文化大賞・受賞者を囲んで

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埼玉新聞(2025年5月19日付)に掲載されました!

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 第8回渡来文化大賞の作品募集は2025年9月末頃から開始し、12月31日締め切りとなります。2026年3月に選考委員会による審査によって大賞、奨励賞、啓蒙賞が決まり、同月末ごろに発表します。授賞式や講演会は5月を予定しています。

 「渡来文化大賞」は、古代史研究、とりわけ渡来文化についての研究成果(著書・論文・展示発表など)に対して大賞や奨励賞、啓蒙賞を贈り、これらの分野の研究が進むこと、若手研究者への励みになること、広く一般に親しまれることを目的にしています。

古代渡来文化研究者の皆様、奮っての応募をお待ちしております。

高麗1300・日本高麗浪漫学会