高麗浪漫学会通信  第5号

高麗浪漫学会通信  第5号

高麗浪漫学会通信  第5号             2015年1月20日
編集・発行 高麗浪漫学会
〒350-1243 埼玉県日高市新堀855番地3
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あけましておめでとうございます。 会員皆様のご健康とご多幸をお祈り申し上げます。さて、日本では皇祖神の天照大神が日神・太陽神とされていることなどから日の出(御来光)を拝むという風習があり、元旦に初日の出を御覧になった方もおられると思います。本号では、その日光と高句麗の始祖に関するお話をしたいと思います。       (高麗浪漫学会理事 赤木隆幸)

 

《神話コラム》 日光感精卵生神話

(高麗浪漫学会理事 赤木隆幸)

日光が当たって受胎するのを日光感精説話と称し、卵や玉から生まれるのを卵生説話(新羅の始祖赫居世居西干も卵生)と言います。この二つを合わせ持つのが「日光感精卵生説話(神話)」です。『魏書』巻100高句麗伝や『三国史記』高句麗本紀によりますと、高句麗の始祖である朱蒙(シュモウ・東盟聖王)の生誕は日光感精+卵生であったとされます。

『魏書』巻100高句麗伝

高句麗は夫余より出ず。自ら先祖を朱蒙と言う。朱蒙の母は河伯(カハク・かわのかみ)の女(むすめ)にして、夫余王のために室の中に閉ざされり。日の照らす所となり、身を引きてこれを避くるも、日影また逐う。既にして孕むこと有り。一つの卵を生む。大きさ五升の如し。夫余王、これを棄て犬に与う。犬食らわず。これを棄て豕(シ・ぶた)に与うも、豕もまた食らわず。これを路に棄つれば、牛馬これを避く。後にこれを野に棄つ。鳥衆(あつ)まり、毛を以ってこれを茹す。夫余王これを割剖せんとするも、破ること能(あた)はず。遂にその母に還す。その母、物を以ってこれを裹(つつ)み、暖処に置く。一男の殻を破りて出ずること有り。その長に及び、字(あざな)を朱蒙と曰いけり。(後略)

現代語訳:高句麗は夫余の出身で、自ら先祖を朱蒙だと言う。朱蒙の母は河伯の娘で、夫余王によって室内に閉じ込められていた。室内に日光が差し込んだとき、彼女は身を引いて日光を避けたが、日光は追いかけてきた。これによって彼女は身ごもり、一つの卵を生んだ。大きさは五升ぐらいであった。夫余王は卵を棄てようとして犬に与えたが犬は食わず、豚に与えても豚もまた食わなかった。卵を路に棄てれば、牛や馬が卵を避けて通った。その後、野に棄てると、鳥が集まってきて羽で包んだ。夫余王は卵を割ろうしたが、割ることができず、遂に卵をその母のもとに還した。母は何か物で包んで、暖かい所に置いた。すると一人の男の子が殻を破って出てきた。男の子が成長すると、名前を朱蒙とした。(後略)

このような日光感精卵生説話は、日本の『古事記』の中にもみられます。それが天之日矛(あめのひこぼ)のお話です。

『古事記』応神天皇段(現代語訳のみ記載)

昔、新羅の国王の子がいた。名は、天之日矛(あめのひこぼ)という。この人は海を越えて日本に渡ってきた。渡ってきた理由は、新羅国に一つの沼があって、名を阿具奴摩(アグヌマ)といった。この沼のほとりで、一人の卑しい身分の女が昼寝をしていた。すると、日の光が虹のように女の陰部を射した。また、一人の卑しい身分の男がいた。その様子を不思議に思って、常に女の行動を窺っていた。

赤留比売神社

赤留比売神社(アカルヒメジンジャ) 大阪市平野区

すると、この女は昼寝の時に身ごもり、その後、赤い玉を生んだ。そこで、窺っていた卑しい男は、その玉をもらい受けて、いつも包んで腰につけていた。この人は、田を谷間に作っていた。そこで、耕作人たちの飲食物を一頭の牛に背負わせて谷間に入ったところ、国王の子である天之日矛に出遭った。天之日矛はその人に問うて「どうしてお前は飲食物を牛に背負わせて谷間に入るのだ。お前はきっとこの牛を殺して食べるのだろう」と言って、すぐさまその人を捕らえて、牢屋に入れようとした。その人は答えて「私は牛を殺そうとしているのではありません。ただ耕作人の食べ物を運んでいるだけです」と言った。しかし、天之日矛はそれでも赦さなかった。そこで、この人は腰につけていた玉を解いて、国王の子に賄賂として贈った。

そして、天之日矛はその卑しい男を赦して、その玉を持ち帰って床に置いたところ、玉はたちどころに美しい乙女の姿になった。天之日矛はその乙女と結婚し、正妻とした。その乙女は常にいろいろ美味しい物を作って、その夫に食べさせていた。ところが、その国王の子は、思い上がって妻を罵ると、その女は「だいたい私はあなたの妻となるべき女ではありません。私の祖先の国に行くことにします」と言って、すぐに密かに小舟に乗って逃げ渡って来て、難波(なにわ・現在の大阪府)に留まった〈これは、難波の比売碁曽社(ひめごそのやしろ)に鎮座する、阿加流比売神(あかるひめのかみ)というものである〉。

天之日矛は、その妻が逃げたことを聞いて、すぐに追って来て、難波に入ろうとしたところ、その渡(わたり)の神が行く手を塞いで入ることができなかった。それゆえ、新羅に帰ろうとして、但馬国に停泊した。そのままその国に留まって、多遅摩(たじま)の俣尾(またお)の娘、名は前津見(さきつみ)を娶って生んだ子は、多遅摩母呂須玖(たじまもろすく)。(後略)

この説話には高句麗ではなく新羅との関係が示されていますが、このような日光感精卵生説話は朝鮮半島から日本に伝来したと考えることができるでしょう。高麗神社の祭神である高麗王若光の名前にも「光」が含まれていて、偶然の一致としても、このような日光感精神話の影響を想像させられますね。ただし、日光感精卵生説話は朝鮮半島独自のものではありません。恐らくその根源は、内陸アジアにあると思われます。

朱蒙の話に戻しますと、朱蒙の母親は河伯(カハク・かわのかみ)の娘であったとされます。『三国史記』高句麗本紀によりますと、その名は「柳花」でありました。また、東盟聖王14年8月に、柳花が東扶余でなくなると、東扶余の金蛙王はこれを葬り、神廟を建てたとされます。この神廟については、『周書』巻49高句麗伝に、「有神廟二所。一曰夫余神、刻木作婦人之象。一曰登高神云。是其始祖夫余神之子。竝置官司、遣人守護。蓋河伯女与朱蒙云」(神廟が二所有る。一つは夫余神といい、木を刻んで婦人の像に作っている。もう一つは登高神といい、始祖夫余神の子である。どちらにも官司を置き、人を派遣して守護させている。恐らく河伯の娘と朱蒙であろうという)と記されています。

このように朱蒙の母親が河伯の娘であったことから、水や川の神との関係性が窺え、さらに高句麗では母親の柳花も始祖として神廟に祀られていたことがわかります。ここで、高麗王若光を祀る高麗神社の立地を考えてみますと、高麗川のすぐ近くにあることがわかります。また、神奈川県大磯町に鎮座する高来神社(高麗神社)のすぐ脇にも花水川が流れています。やはり、日本に渡ってきた古代の高麗人たちは、川の近くを好んで住み、始祖神を崇拝していたのでしょうか。興味深いことに、高麗神社の境内には水神を祀る水天宮の社が存在します。高麗神社の二の鳥居をくぐって少し先の左側に水天宮への参道の入口があります。細い山道を5分ほど登ったところにその社はあります。不思議なことに、そこには湧水などの水がありません。また、山の中であるため、日中でも薄暗いです。もちろん、周囲に樹木がなければ見晴らしがよく、東から朝日が差し込む場所ではあります。ここに水天宮が祀られた由縁は定かではありませんが、もしかすると河伯や柳花と何か関係があるのかもしれませんね。皆様も一度、訪れてみてください。

参考文献:大林太良『東アジアの王権神話』、弘文堂、1984年

 

《お知らせ・掲示板》

今年の前半期は、歴史に関する事業として、次のような行事を予定しています。

なお、2月14日と3月14日の史料解説講座へ参加を希望される方は、資料準備の都合上、必ず出席のご連絡をください。(事務局:山田英次 電話042-978-7432 携帯080-1342-2177)

 

1)2015214日(土)14:0016:00 高麗神社1F

史料解説講座(近世)「高麗家文書を読む」① 講師:横田 稔(高麗神社主任学芸員)

2)2015314日(土)14:0016:00 高麗神社1F

史料解説講座(近世)「高麗家文書を読む」② 講師:横田 稔(高麗神社主任学芸員)

 

3)2015530日(土)~62日(火)

韓国「高句麗・百済の歴史を訪ねる旅」(3泊4日)参加費15万円

※詳細は別途「募集案内」をご覧ください。申込先:日韓交流の旅きずな(小俣洋一郎)

電話 049-298-8900 携帯 080-3479-3638

 

4)2015614日(日)13:0016:30  日高市文化体育館ひだかアリーナ

渡来人の里フォーラム「歴史観光による地域活性化を考える」

奈良県明日香村・森川裕一村長、女優・中野良子さんを迎えてお話しを聴き、歴史文化の活かし方

をパネルディスカッションします。(詳細は、3月頃に開催案内パンフを配布予定)

 

5)201575日(日)13:0016:30 日高市文化体育館ひだかアリーナ

公開歴史講演会「仮:高麗郡建郡と東アジアの交流について」

東京大学大学院・佐藤 信教授をお呼びしてご講演いただく予定です。

(午前中に第3回高麗浪漫学会定期総会を開催します)

詳細が決まり次第、ご案内致します。

 

また2015年度も12月の歴史シンポジウムのほか、歴史見学会等も計画し実施していく予定でおりますので、よろしくお願いします。