高麗浪漫学会通信 第6号

高麗浪漫学会通信 第6号

高麗浪漫学会通信 第6号

                                             2015年3月26日
編集・発行 高麗浪漫学会
〒350-1231 埼玉県日高市鹿山283番地5(すみや電気2F)
TEL:042-978-7432 E-mail:info@komagun.jp

2013年9月に当学会が誕生しましたが、早くも3年目を迎えようとしています。この2年間に講演会、シンポジウム、歴史講座の開催や「高麗郡入門Q&A」、加藤謙吉先生の講演記録「渡来人の東国移住とその史的意義」を刊行し、多くの方々に高麗建郡について興味や関心をもっていただけたものと少し自負しております。

本会の役割は、何と言っても建郡1300年事業を盛り上げるため、研究をとおして建郡の情報発信をすることにあります。本会の研究の目指すところは、地域の視点から建郡研究を進める、つまり当地域にとっての建郡の歴史的意義を深め、かつその成果を広く公開することにあるのではないでしょうか。

ただ、浪漫学会ですから、学問的に解明できない、あるいは決着がつかない問題についても柔軟な思考と発想で歴史ロマンを提供する必要があります。それによって地域の方々が歴史に想いを馳せ、そして地域の歴史に誇りを感じ、それが地域の再発見と魅力の発掘につながればと思っております。

それにはまず、会員間で情報を共有することが大切です。小さな学会通信ですが、果たす役割は大きいと考えます。ぜひ、ご活用ください。

(高麗浪漫学会会長 高橋一夫)

《歴史コラム》 高麗人の足跡1 額田(ぬかた)の高麗人

(高麗浪漫学会理事 赤木隆幸)

668年の高句麗滅亡に際して多くの高句麗人(高麗人)が倭(日本)に渡ってきたと思われますが、実はそれ以前から高句麗と倭(日本)との交流はあり、倭に渡来して定住していた高麗人たちがいました。本通信の《歴史コラム》では、シリーズ「高麗人の足跡」と題しまして、これら高麗人たちの足跡を史料や遺跡などから探っていきたいと思います。

まず本稿ではシリーズの1としまして、大和国(奈良県)の額田(ぬかた)という地にいた高麗人についてみていきたいと思います。『日本書紀』仁賢天皇の6年の条には、以下のような高麗人の記述がみられます。

高麗浪漫学会通信6の漢文

現代語訳:

この年、日鷹吉士(ひたかのきし)が高句麗から帰り、工匠(てひと・技術者)須流枳(するき)・奴流枳(ぬるき)らを献上した。今、倭国(大和国)山辺郡(やまのべのこほり)の額田邑(ぬかたのむら)の熟皮高麗(かはをしのこま)は、その後裔である。

仁賢天皇6年は、凡そ5世紀末ごろのことです。本文の「今」というのは、『日本書紀』が編纂された八世紀初頭か、原史料(この記事のもと)が書かれた時期(八世紀初頭以前)のことで、もちろん仁賢天皇6年よりも後のことです。日鷹吉士(ひたかのきし)は、外交で活躍した(難波)吉士氏の一族で、仁賢天皇6年9月に天皇の命令で巧手者(てひと・技術者)を求めて高句麗に派遣されていました。額田の地は、『倭名類聚抄』では「平群郡額田郷」と記され、平群郡(へぐりぐん)に属しています。額田の地は平群郡と山辺郡の境界付近に位置しているため、山辺郡に属していた時期もあったようです。「額田寺伽藍並条里図」が残る額田寺(額安寺:大和郡山市額田部寺町)はこの地にあります。

須流枳(するき)・奴流枳(ぬるき)は、人の名前です。この人たちの子孫が「熟皮高麗(かはをしのこま)」という高麗人たちで、「熟皮」とは皮を鞣す(なめす)ことだと思われます。つまり、額田の地には、皮の加工技術をもった高麗人たちが住んでいたことになります。

『令集解』(りょうのしゅうげ・養老令の注釈書)職員令大蔵省条が引く「官員令別記」(大宝官員令の別記)には各地の狛人(こまひと・高麗人)について、「忍海戸の狛人五戸、竹志戸の狛人七戸、合わせて十二戸、役日に限りなし。但し、年料の牛皮二十帳以下、作らしむ。村々の狛人三十戸、宮郡の狛人十四戸、大狛染六戸、右の五色人等、品部と為して、調役を免ずるなり。(後略)」とあり、高句麗系渡来人が皮革の加工(ここでは革の染色)に携わっていたことがわかります。

『日本書紀』によると、仁賢天皇の宮は「石上広高宮(いそのかみのひろたかのみや)」といいます。石上(いそのかみ)の地は石上神宮がある奈良県天理市にあり、額田を含む大和郡山市の南部に隣接しています。額田の地には大和川・佐保川が流れていますから、高句麗から海を渡って連れて来られた高麗人たちは、難波から大和川水系を遡り、仁賢天皇の宮の近くに居住させられたということでしょう。

《お知らせ・掲示板》・・・今年の行事計画等をお知らせします。

加藤謙吉先生・講演記録集『渡来人の東国移住とその史的意義』(2013年9月8日・高麗浪漫学会設立記念時)が2月23日に、関係者の協力で発行することができました。会員および関係機関等に配布いたします。

1:516日(土)~17日(日)10:0016:00 会場:サイボクハム(日高市)

「高麗郡建郡まつり2015inサイボク」を開催しますが、5月16日は建郡記念日にあたるため、高麗宮司による「高麗郡建郡1300年」の歴史講演会(13:00~15:00:サイボク飛竜館会議室・60名)があります。特別な記念日ですので、どうぞふるってご参加ください。

2:524日(日)午後より 会場:日高市生涯学習センター

「高麗郡建郡1300年記念事業委員会定期総会」の開催。2016年の事業計画・予算等のほか、一般社団法人「高麗1300」への移行総会となります。(後日、正式なご案内を通知します)

3:614日(日)13:0016:30 会場:日高市文化体育館ひだかアリーナ(800名・入場無料)

「渡来人の里フォーラム」を開催。歴史文化観光をテーマに奈良県明日香村・森川裕一村長、女優中野良子氏にご講演いただきます。明日香村の古代歴史文化を活かした地域づくりについて学びます。

4:75日(日)13:0016:30 会場:日高市文化体育館ひだかアリーナ(500名・入場無料)

「公開歴史講演会」を開催。東京大学大学院・佐藤信教授より「仮:高麗郡建郡と東アジアの交流について」ご講演いただきます。またトークセッションも行います。さらに、併せて午前11:30より、3回「高麗浪漫学会」定期総会(浪漫学会会員対象)を同会場会議室で開催します。

5:125日(土)13:0017:00 会場:日高市文化体育館ひだかアリーナ(600名・入場無料)

「第3回高麗郡建郡1300年歴史シンポジウム」を開催予定。企画の詳細は、浪漫学会企画運営委員会のメンバーにて、只今協議検討中です。乞ご期待!!