高麗浪漫学会通信  第3号  

高麗浪漫学会通信  第3号  

2014年9月10日

高麗浪漫学会通信  第3号

編集・発行 高麗浪漫学会
〒350-1243 埼玉県日高市新堀855番地3
TEL/FAX:042-978-7432 Email:info@komagun.jp

新涼の候、みな様いかがお過ごしでしょうか。今回は、本学会の会長である高橋一夫氏へのインタビュー記事と、拙稿「若光の薬」(創刊号)の補足を掲載いたします。また、歴史講座見学会の募集をしておりますので、万障お繰り合わせのうえ御参加ください。  (高麗浪漫学会理事 赤木隆幸)

 

《インタビュー》 2013年「第1回高麗郡建郡1300年歴史シンポジウム」を終えて

 

2013年11月30日、初めての高麗浪漫学会シンポジウム「高麗郡建郡1300年歴史シンポジウム」が、日高市文化体育館ひだかアリーナで開かれました。聴講者は予想を大幅に超える約500人。研究者たちによる数々の発表に、熱心な質問も飛び交い、シンポジウムは大成功。その直後、高橋一夫・高麗浪漫学会会長にインタビューしました。(以下敬称略)

 

1300年事業委員会広報事業部会(以下「広報」) 今回のシンポジウムの感想をうかがえますか。

高橋 考古学的には最近中平さん(中平薫・日高市教育委員会職員)による調査がだいぶ進展していて、高麗郡の役所の場所など少しずつしぼり込まれつつあるというのが、今日の発表で分かったという点が大きな成果ですね。私が以前調査したときとは雲泥の差です。 高橋会長画像

広報 37年前、この地で最初に考古学的調査をしたのは高橋先生だと聞いています。当時のことを教えてください。

高橋 そのときは、「この辺りには縄文時代の遺跡はあるのに、弥生、古墳時代の遺跡がない。しかし奈良時代以降はある。これはまさに高麗郡建郡の歴史と一緒だ、建郡が表している考古学的現象だ」と思いました。広報 37年前にインスピレーションで感じたことが、一つ一つ、考古学に現実化してきているなんて、ワクワクするような楽しさですね。

高橋 29歳の時、高岡廃寺の発掘調査と分布調査を行いました。そのときから関わっていますからね。そのときは土器をひろい、地表から観察しただけですが、その後は中平さんが実際に掘っている。発掘調査で出土した遺物は当時の人々が使っていた物の一割残っていればいい方です。発掘調査はまさに鑑識と刑事が一緒になって、犯人を追求していく作業と似ています。当時イメージしたのと違う部分もありますが、大枠では、この地は弥生・古墳時代は水田が作れなかったが、建郡によりやっと作られるようになって人が住み始めたという大きな流れが証明されつつあります。

一方、文献から歴史を調べる人たちは広い目で、なぜここに高麗郡が置かれたのかを探っています。高麗郡建郡時の東アジアの状況、日本の状況が分かってきて、建郡にはきわめて政治的な要因が背後にあるという見当が付いてきました。

広報 〝考古学的にみる〟とはこの地で深く掘り下げ調べていくことで、〝文献的にみる〟とは世界も含めた広い目で調べていくということなんですね。

高橋 そうです。その両方から迫っていくというのが今回のシンポジウムでの一番のねらいでした。その通りに進みましたが、突き詰めてみると、研究がまだまだ十分行われていないのであまり分かっていない、ということも分かってきました。まさに、高麗郡建郡1300年事業委員会の基盤を学問的に積み上げていくのが、高麗浪漫学会の大きな役目だと改めて感じました。

もっといろいろな分野の研究者に参加していただき、例えば民俗学的に調べたり、地名学的に調べたりと、各分野の人が集まり、少しでも研究が進むといいなあと思います。

広報 皆さんの力を結集して歴史を紐解いていく。そんな学会なんですね。

高橋 それが私のロマンであり、会のロマンでもあると思いますね。そういう点で「浪漫」という言葉は気に入っています。みんながそれぞれ持っている高麗建郡に対するロマンや歴史に関するロマンをベースにして、学問的なことをやっていければ一番いいと思います。

広報 先にロマンがあって学問へというのはおもしろいですね。今回のシンポジウムは一般の人たちにも分かりやすいよう、説明などにも配慮されているように感じました。

高橋 シンポジウムに参加した皆さんが、高麗郡へのロマンが湧くように、そして分かりやすいようにと努力しました。専門家だけだと普通の学会になってしまいます。地元の人から「うちにこういうものが残っているのだけど」「私はこう思う」というようなことがあったら、それについて議論したり勉強したりすればいいと思います。

それと、普通学会では、最初に会場からの質問は受け付けません。でも浪漫学会は、ロマンを感じている人ならだれでも参加できるし、発言できる会にしたいので、最初に質問を受け、それを中心にシンポジウムを進めました。質問は30くらいありました。答えることができない質問もあり、我々の勉強不足を感じています。

おもしろい学会ですね。

高橋 それが、学会名に「浪漫」が付いた由来ですから。分からないことをみんなで考えて調べていくのがこの会のいいところだろうなあと思っています。

(1300年記念事業委員会・広報事業部会 綿貫和美)

 

 

《歴史コラム》 「若光の薬」補足  ~平安京新出土木簡について~

 

創刊号で『大同類聚方』にみえる若光の薬「間善野薬」を取り上げましたが、その薬材について施薬院の研究者である岩本健寿さんに御教示いただきましたので、報告させていただきます。

2014年7月初に京都市埋蔵文化財研究所によって、施薬院を示す木簡の出土が公表されました。発掘調査域は京都市南区東九条上殿田町(平安京左京九条三坊十町の北西部に該当)で、平安時代前期の遺構(池跡)から、九世紀の木簡17点が出土しました。これらの木簡のうち、以下に示す木簡1-1に非常に興味深い記述がみられます。

 

木簡1-1釈文「<武蔵国施薬院蜀椒壹斗

※木簡解説「武蔵国から施薬院に送られた「蜀椒」(しょくしょう・なるはじかみ)一斗に付けられた荷札木簡。「蜀椒」は朝倉山椒の異名。『延喜式』典薬寮によれば、天皇・中宮の元日御薬、臘月(ろうげつ)御薬などにも使用される。なお『延喜式』典薬寮は、「諸国進年料雑薬」として、武蔵国が典薬寮に調進する28種の薬物を規定し、その中に「蜀椒三斗」が見える。木簡の「施薬院蜀椒」との記載は、武蔵国が京に蜀椒を送る際、施薬院送付分と他官司(典薬寮など)送付分と区別したことを示す。(京都産業大学 吉野秋二)

 

※施薬院とは、仏教の福田思想にもとづき病人に薬を施す施設で、天平年間に光明皇后によって設置されたのが始まり。

 

『延喜式』典薬寮、諸国進年料雑薬条

武蔵国廿八種

黄芩卅五斤十両。芎藭五斤。丹参廿五斤。虵〓三斤十両。知母一斤。枸杞十斤。芍薬三斤。桔梗四斤十二両。細辛廿斤。大黄二斤。土瓜三斤十四両。当帰十四斤。甘遂一斤。欵冬花十両。瓜蔕五両。干地黄五斗七升六合。桃仁四斗。烏頭一斛二斗。附子八斗。决明子、牡荊子、葶藶子各三斗。虵床子一斗。地膚子一斗五合。荳蔲子二升。蜀椒三斗。麻黄五斤。豉大一斗。

 

ここで留意されるのが、若光の薬「間善野薬」の薬材の中に「奈流波自加民(ナルハジカミ)」とあったことです。創刊号でも示しましたが、ナルハジカミとは「蜀椒」のことです。創刊号では若光の薬の伝承地を特定することはできず、若光と高麗との関係から武蔵国高麗郡をその候補地に挙げるにとどめました。しかし、今回出土した木簡によって、武蔵国が「蜀椒・ナルハジカミ」の産地であったこと、及びそれが食材ではなく薬材として使われていたことが判明し、若光の薬「間善野薬」は武蔵国高麗郡に伝わっていた薬であるとの蓋然性が高まったといえるでしょう。

(高麗浪漫学会理事 赤木隆幸)

 

 

《お知らせ・掲示板》

1018日(土)「高麗浪漫学会歴史講座(第6回)歴史見学会」のご案内

 

《見学会プログラム》

訪問先:早稲田大学「會津八一記念博物館」

訪問日:20141018日(土)13:0017:00

集合場所:早稲田大学大隈記念講堂前

※高田馬場駅から都バス「早大正門」往きに乗り、終点下車。

下車したところが大隈講堂のすぐ隣となっています。料金180円先払い。

集合時間:1250

定 員: 25名 (講座受講生優先)

※下記1の特別見学会の定員です。常設展はご自由に見学ください。

申込期日:9月30日まで(締切り)

申込み先・・・高麗郡建郡1300年記念事業委員会・事務局 (担当:山田英次)

〒350-1243 日高市新堀855-3

電話 042-978-7432 電子メール:info@komagun.jp

(タイム・スケジュール)

1、13:00~14:30

特別見学会:早稲田大学會津八一記念博物館レクチャールームにて、高句麗瓦を閲覧。

(東洋美術担当学芸員:金志虎氏)

2、14:30~17:00

自由見学会:早稲田大学會津八一記念博物館の常設展示・企画展示。(入館無料)

早稲田大学坪内博士記念演劇博物館の常設展示。(入館無料)

※いずれの博物館も早稲田大学構内にあります。

3、17:00~

懇親会: 会場は早稲田大学近くを予定しています。会費未定(幹事:赤木・山田)

※参加を希望される方は事務局へご連絡ください。

 

・第2回「高麗郡建郡1300年歴史シンポジウム」開催概要のご案内

 

(特 色)・・考古学的視点から、その成果を踏まえた建郡の実態と古代の謎について迫ります!

(テーマ)・・「建郡前後の高麗郡と周辺地域を考える~建郡の謎を解明する!

(日 時)・・2014年12月6日(土)13:00~17:00

(会 場)・・日高市文化体育館ひだかアリーナ(JR高麗川駅より徒歩20分)

〒350-1206 日高市大字南平沢1010 電話 042-985-2090

(定 員)・・600名(入場無料)事前申込み不要

(主 催)・・日高市/高麗郡建郡1300年記念事業日高市実行委員会/高麗郡建郡1300年記念事業

委員会/高麗浪漫学会

(日 程)・・開場・受付 12:30~13:00

1)1 13:00~13:30 開会式

2)13:30~15:30 講演発表(講師4名×30分)

1:プロローグ「高麗郡建郡記事の謎」(初心者向けに概要と謎を簡潔に説明します)

講師・・赤木隆幸(高麗浪漫学会理事)

2:発表1「高麗郡の中心地はどこなのか?~郡役所の推測~」(郡役所のモデル比較)

講師・・中平 薫(日高市教育委員会)

3:発表2「入間郡からみた高麗建郡~その建郡前夜~」(坂戸市周辺の考古的な成果)

講師・・加藤恭朗(坂戸市教育委員会)

4:発表3「集落からみた高麗建郡~渡来人による開発~」(飯能周辺の考古的な成果)

講師・・富元久美子(飯能市教育委員会)

3)15:30~15:50 休憩

4)2 15:50~16:50 パネルディスカッション

司会 中野高行 パネラー:加藤恭朗・富元久美子・中平薫・赤木隆幸

5)16:50~17:00 閉会

(製作配布物)予定・・仮称「古代高麗郡広域発掘成果の写真MAP」を当日までに製作し、皆さんに配布したいと考えています。ご期待ください。